フードコーディネーター取材特派員NEWS

筑紫万葉の古都・太宰府に伝わる「梅ヶ枝餅」について

福岡県太宰府市は県中心地の天神より電車で30分の観光都市として知られています。
今から1300年前、現在の太宰府市は「遠の朝廷(とおのみかど)」と呼ばれ、九州全体を治める「大宰府」という役所が置かれていました。
今も市内には当時の歴史を物語る政庁跡や水城跡などの史跡が残り、太宰府天満宮や観世音寺などの名社・古刹が存在しています。
特に、全国天満宮の総本社と言われ、学問の神・菅原道真公を祀る太宰府天満宮は、受験合格などを祈願する参拝者が数多く訪れ、年間を通じて沢山の観光客で賑わう名所です。
今回は、この太宰府天満宮の門前や参道で長年に渡り販売され、参拝客や地元の人々に愛されている「梅ヶ枝餅」についてレポートしたいと思います。

 

西鉄太宰府駅から天満宮へ向かう参道を歩くと、香ばしい焼き餅の香りが漂ってきます。
参道の両脇に並ぶ茶店や土産店では、太宰府名物の「梅ヶ枝餅」を焼いている様子を伺う事が出来ます。
最近は機械化している店もありますが、まだまだ手焼きをしている店が大半で、予め丸められた餡は一つ一つ餅粉でくるまれ、4個焼きの鉄板の型に入れられて、表裏を返しながら焼き上げられていきます。
その職人芸とも言える技から手際よく餅が焼かれていく光景には思わず立ち止まり、一連の工程に見入ってしまいます。
店により味に若干の違いがある点に興味を誘われ、ガイドブックを片手に食べ歩きをする人の姿も…。
焼き立ての「梅ヶ枝餅」は、多くの参拝客が味わう太宰府の名物となっています。

 

では、この「梅ヶ枝餅」の由来についてご紹介しましょう。
「梅ヶ枝餅」は、平安時代に大宰府に権帥として左遷された菅原道真公に所縁の深い菓子で、発祥については次の二説が主に伝えられています。
一説は、榎寺に隠居して悄然と暮らしていた公を慰めようと、安楽寺門前で餅を売っていた老婆(後の浄妙尼)が餅を供した所、公の好物となり、公の死後、老婆がその餅に梅の枝を添えて墓前に捧げたというものです。
もう一説は、左遷後、罪人同様の悲惨な生活を強いられ、日々の食事もままならなかった公の様子に見かねた老婆が、梅の枝を差した餅を部屋の格子越しに差し入れていたという史話です。
このような故事から、この餅を食べると公の霊が通じたのか病魔を防ぐと言われ、参道では「梅ヶ枝餅」と称したこの餅が売られるようになり、江戸時代には太宰府の名物と言われるほどになりました。

太宰府天満宮は梅の名所としても名高く、如月の時期になると境内には紅白の梅の花が咲き誇り、公の心を慰めた花伝説に思いを巡らせることが出来ます。
七分咲きの梅の花に早春の訪れを感じつつ、天満宮北神苑の一番奥に位置にある「お石茶屋」へ足を運んでみました。
この茶屋の屋号は、明治32年生まれの女主人江崎イシの名より付けられたものです。
茶屋の奥に進み、木々に囲まれた屋外の茶席に腰をかけると、まだ冷たい空気の中にも春の日差しを感じます。
梅ヶ枝餅を注文し、ほのかに香る梅花の風情を楽しんでいると、芳ばしい香りと共に焼き立ての餅が運ばれて来ました。
表面には梅形の刻印がうっすらとかたどられ、こんがりと付いた焼き色が食欲を誘います。
アツアツの餅を一口ほおばると、パリッとした皮からあんこのやさしい甘みが広がリ、思わず笑みがこぼれてしまいます。
数々の政界人、詩人、俳優なども訪れたという由緒ある茶店で、心と体を温めてくれる餅を頂きながら、万葉の時代に思いを馳せたひと時でした。

 

さて、最近話題の太宰府のスポットについてですが、地域活性化複合施設「太宰府館」が挙げられます。
観光案内の情報基地としての役目を持つこの施設では、太宰府の文化を体感出来る様々なプログラムやイベントが開催されています。
ここで実施されている「梅ヶ枝餅製作体験」は、私が講師を務める香蘭女子短期大学の「菓子の歴史」という授業の中でも、学外実習として参加させて頂いています。
このプログラムでは、梅ヶ枝餅の歴史を学びながら自分で餅作りを経験し、その楽しさと美味しさを味わうことが出来ます。
具体的な内容は、まずボランティアの指導員の方から餅の由来についてのお話を伺い、以下のレシピに基づいて、実際に調理にチャレンジするというものです。

①練り上げた餡を丸める。
②もち米に少量のうるち米を混ぜた粉を水で練って生地を作る。
③②の生地一個分を手のひらに丸く平らに広げ餡をくるむ。
④③を焼き型に入れて焼き上げる。

餡が生地からはみ出ない様に包むのは結構難しい作業で、指導員の方からアドバイスを受けながら指先でとじ目を合わせたり、手のひらで押さえたり…と工夫しながら成型していきます。

 

 

 



加熱時間は約4~5分、焼き色をチェックしながら両面こんがりと色付いたら出来上がり。
自分で作る楽しさは勿論、手作りの餅をその場で味わう喜びは格別です。
施設内のギャラリーやホールには、街の歴史や文化について様々な角度から触れることが出来る展示品や資料も常設されているので、太宰府を訪れる機会があれば、是非立ち寄って頂きたいお薦めのスポットです。

他にも太宰府には、アジアと日本の文化交流をテーマにした「九州国立博物館」や、美しい石庭の苔寺として知られる「光明禅寺」といった魅力ある観光スポットがあふれています。
美しい自然と長い歴史に彩られた古都太宰府…四季折々の風情を感じながら、古の時代をしのぶ太宰府散策をしてみては如何でしょうか?
私も福岡在住のフードコーディネーターとして、これからも郷土に息づく食文化をあらためて見つめ直し、その魅力を伝えていきたいと思います。

<取材協力>
・地域活性化複合施設 太宰府館
 福岡県太宰府市宰府3丁目2-3 (TEL) 092-918-8700
・お石茶屋
 福岡県太宰府市太宰府北神苑   (TEL)092-922-4045