フードコーディネーター取材特派員NEWS

食のイベントを企画開催するには? ~「ホテル西洋銀座のスイーツ、回顧と展望」(2012年10月)

関東

2012年10月12日

 私の仕事は「スイーツジャーナリスト」です。お菓子の新店や新商品の取材・記事執筆、メディアでの紹介、商品開発のコンサルティングやイベントのコーディネート、司会や解説、スイーツコンテストの審査員など、「スイーツ」に関わる様々なことをしています。
 2012年10月、「ホテル西洋銀座のスイーツ、回顧と展望」と題して、「ホテル西洋銀座」のスイーツをいただく会を企画し、先日、第一回目を開催しました。引き続き第二回目の開催を予定しています。
ホテル西洋銀座でのイベント

 なぜこのような会を開催することになったか?それは、長年愛顧されてきた「ホテル西洋銀座」が、2013年5月31日で営業終了するためです。
 ここでは、会の様子をお伝えする通常のレポ―トではなく、フードコーディネーターを志す方にとって役立つノウハウを盛り込み、「食のイベントを企画開催するには、どのような準備が必要か?何をしたらいいのか?」をご紹介したいと思います。

1.スイーツイベント企画の動機
2.スイーツイベント企画の設計
3.スイーツイベント企画の集客
4.スイーツイベント企画の準備
5.スイーツイベント企画の当日
6.スイーツイベント企画のその後

ホテル西洋銀座スイーツ

ホテル西洋銀座の浦野シェフと共に

1.スイーツイベント企画の動機
 私は、2001年にスイーツ情報のポータルサイト「幸せのケーキ共和国」を起ち上げ、2002年頃から、小規模な「メンバーオフ会」に端を欲するスイーツイベントを開催してきました。平均すると、一年に10回程度。サークル活動的な内輪のイベントも多いのですが、何度か、企業とのコラボレーションにより、ある程度規模の大きな企画も手掛けてきました。たとえば、愛媛県庁と当地のJAと共に取り組ませていただいた、地元農産品を使った加工品スイーツ開発・PRの一貫として開催した試食評価会。また、飲料メーカーとのコラボレーションによる、烏龍茶とスイーツとの相性評価の試食会など。ショップのPRをかねた試食体験会のコーディネートをご相談いただき、企画することもあります。
 ご依頼の有無に関わらず、スイーツイベントの企画を考える出発点は、全て私自身が、「こんな会があったら面白い、参加したいなと思う」というのが最初のきっかけです。「ホテル西洋銀座」の場合も同じでした。ホテルは、2012年に創業25周年を迎えたところでしたが、2013年5月31日で営業終了が決定したことをニュースで知ったのです。
 スイーツの業界で、このホテルは、名門中の名門として知られています。歴代のシェフをはじめとするご出身のパティシエの方々は、その後、独立してご自身のお店をオープンされるなどして、現在も業界の最前線で活躍されています。私も、ホテルのお菓子をご紹介させていただいてきたのはもちろん、そんなOBの皆様にも、お店の取材等で大変お世話になってきました。
 スイーツファンにとって、思い出深く、語り継いでいきたい数々の名品が生まれたこのホテルのスイーツを、この機会に改めて味わい、共に語らう場を設けたいと思ったのが、そもそもの動機でした。そんなご提案をホテル広報のご担当者様にお伝えし、ご協力いただきたいというお話を差し上げたところ、先方でも快くご了承くださって、今回の企画がスタートしました。

2.スイーツイベント企画の設計
 このようなイベント企画、また取材の依頼などをする場合、まず必要となるのが「企画書」です。先方が大きな企業ともなると、社内で稟議を通していただくのに回覧可能な企画書が必須となります。企画書には、企画の主旨、どのような方達にご案内するか、日程案、集客方法、内容、予算、スケジュールなどを、箇条書きにするなどしてわかりやすく盛り込みます。また特に、自分が初めてアプローチする企業宛てであれば、自分自身のプロフィールや実績なども添えます。
 私の場合、「ホテル西洋銀座」の広報のご担当者や、シェフパティシエの方とは既にご面識があり、日頃よりお世話になっていましたので、最初の提案後すぐに、顔を合わせての打ち合わせとなりました。

 スケジュールは、告知集客期間や、詳細を詰める期間の猶予を逆算して、余裕をもって進めなくてはなりません。今回は、6月半ばに初回の打ち合わせをして、日程候補をすり合わせて絞り込み、10月に開催することを7月初頭には決定しました。
 日程は、平日の日中と、平日の夜の2回設定しました。イベント参加の客層は、大きく2パターンに分かれます。平日の日中ならば外出しやすいという方と、平日日中はお仕事のため、夜か土日でないと参加できないという方です。ただし、土日はホテル側で宴会や結婚式等が多く、お部屋を借りるのが難しかったり、スタッフの方の配置が難しいといった状況が一般的です。そこで今回はご相談のうえ、昼夜ともに平日としました。仕事帰りのお客様にとっては、19時スタートでも早いという方が多いため、夜は19時半からにしていただきました。また、食事をいただくイベントなのか、お菓子をいただくイベントなのかによっても、時間を考慮する必要があります。お菓子ならば、本来は、ランチやディナー時間帯は外して、おやつ時間帯の14-16時頃が望ましいと言えます。そこで、平日日中はこの時間にしましたが、夜は、簡単な食事代わりにもなるよう、あくまで口直しの範囲ですが小さなサンドイッチ等の軽食をプラスし、フリードリンクの内容にワインやビール等のお酒も入れていただくことにしました。
 ですが、たとえおやつの時間帯であっても、ずっと甘いものばかりが続くと、だんだん美味しくいただけなくなるものです。そこでホテル側にお願いして、ポテトチップスといった塩味のスナックはご用意いただきました。また、メニュー構成自体も、甘いものに飽きてくる頃を見計らって塩気のあるチーズケーキを挟むといった順番にして、最後まで美味しく召し上がっていただけるようにしました。

ホテル西洋銀座の“幻のチーズケーキ”

 イベントの時間は内容によりますが、どんな会でも、2時間を超えると中だるみしがちです。メリハリのある構成で、しっかりとお話も伺え、スイーツの試食もゆっくりと存分にできるようにするには、およそ2時間を目安とします。
 次に、内容と予算ですが、イベント企画の動機から、自然と、このような内容を盛り込みたいというポイントが出てくると思います。今回の場合、「ホテル西洋銀座の歴史を振り返る」という最大の目的があります。そのため、各時代を象徴しうる代表的なお菓子を召し上がっていただくこと。また、作り手であるシェフを主役として、なるべく多くのお話をいただくこと。そして、参加者の皆様と対話していただくこと。そんな内容にしたいと考えました。まずは、式次第の叩き台を作ります。そのための準備として、シェフにお願いし、ご提供できるお菓子のリストをご用意いただきました。
 誰かに何かを依頼する際は、どなたに、いつまでに、何をしていただきたいかということをはっきりお願いします。今回は、ホテルの歴史を象徴するような伝統的なお菓子、このイベントでないといただけないような希少性の高いお菓子も盛り込みたいので、そういった物も挙げていただきたいという希望をお伝えしました。
 二回目の打ち合わせで、シェフにご用意いただいた候補リストの中から提供品を絞り込み、生菓子を中心とした計9種類を各人に提供し、それ以外に、テーブルセンターから着席のまま取れるビュッフェスタイルで、様々な焼き菓子を盛り合わせでお出しすることにしました。それらを、以下のような流れに整理しました。

ホテル西洋銀座のスイーツ3種

第一部:創業当初からのスイーツ
第二部:モンブラン食べ比べ ~西洋銀座のクラシックと現在~
第三部:知る人ぞ知る、幻のチーズケーキ
第四部:2012年のクリスマススイーツ紹介

ホテル西洋銀座のモンブラン2種

 試食イベントの場合、トータルで食べる量を考え、美味しくいただけてかつ十分に満足感があるようにする必要があります。9種類のケーキを全てフルポーションで出したら、普通の方にとっては、なかなか最後まで食べきれない量です。少しずつ色々な物を味見できる、というのもイベントならではの魅力なので、カットした物やスモールポーションで出していただく配慮が必要です。また、その場合、カットしていない本来の姿を見たい、写真撮影したいという方も多くいらっしゃるので、展示用の品を別に置けるとより望ましいです。
 また今回は、食べられないものですが、ホテルならではの華やかなデコレーションの一つとして、飴で作られた細工や、大型のクリスマスケーキの見本も展示用にご用意いただきました。

ホテル西洋銀座の飴細工

 

 このような内容を前提として、会場費や飲食費、マイクやプロジェクターなどの必要な設備費、サービス費等を合わせたお見積もりを出していただきます。それ以外の諸雑費や、お手伝いのスタッフをお願いする場合、その方達にお支払いする謝礼や交通費分も考えなくてはなりません。それらの総合計を、見込まれる参加人数で割って、一人当たりの参加費にめどをつけます。満席にならない可能性も考え、ある程度余裕を見ておきましょう。
 この時、自分自身の常識的な感覚として、明らかに参加費が高すぎると感じられる場合は、設計自体に何かしら無理があると考えなくてはなりません。コースのお食事をいただくのであればOKという参加費でも、スイーツをいただくのに、どれだけ付加価値があったとしても、この価格を出すのは厳しいと思う上限があるはずです。そのため、一般に開催されている他の様々なイベント参加費にも、日頃から関心を持っておくといいと思います。また、予算については、一人幾らまでに収めたいという目安がある場合、お店や共催団体に正直ベースでご相談するのも一つのやり方です。お店側も、この予算であればこの内容までできるという提案を示してくれますし、お互いの妥協点を見出すことができます。
 今回は、昼:7000円、夜:9000円という参加費を設定しました。スイーツの会としては、決して安くない金額ですが、会場が一流のホテルであるということと、近年のスイーツのイベントは、凝った内容であれば、8000円、1万円といった物でも成立しているという事実から、あり得ない金額ではないと判断しました。また、内容の希少性で、それだけの価値を感じていただけることを目指すものとしました。

 イベントのタイトルも大事です。内容を端的に表現したキャッチーでわかりやすいもの。興味を持っていただけるようなものにしなくてはなりません。今回のタイトルは「ホテル西洋銀座のスイーツ、回顧と展望」。「回顧」だけでなく「展望」と加えたのは、「振り返って終わりではない。過去を振り返りつつ、この先にどのように続いていくのかを見据えたい」という思いを込めてのことです。

3.スイーツイベント企画の集客
 集客は、インターネットのfacebook、mixi、私の運営するスイーツのポータル情報サイト「幸せのケーキ共和国」ホームページ、ツイッター、ブログ、及び知人達へのダイレクトEメールを使って行いました。イベントの告知は、早いほど望ましいのですが、ある程度近くならないと予定がわからないという方も多く、また、あまりに早すぎると、いったん申し込んだものの、都合が悪くなりキャンセルするというパターンも多くなります。
 今回は、日程が確定した7月上旬段階で、予告として、会の主旨と日程のみお知らせしておきました。facebookやmixiは、そういった情報告知に便利なツールで、同じ趣味を持った仲間同士、コミュニティやグループを作成して情報交換もできますし、「イベント」を作成して友人を招待するといったこともできます。
 今回は、私が日頃よく企画するスイーツの試食イベントに比べて、参加費の価格帯も上であることから、食文化に関して特に関心が高く、それだけの価値を感じてくださる方々にご参加いただきたいという思いがありました。そこで、「食」に関する広いネットワークを持つ友人や先輩にも協力をお願いし、告知を手伝っていただきました。こういう時、フードコーディネーターにとって不可欠である、人と人との繋がり、それまでに培ってきた信頼関係が、何よりも助けとなります。とはいえ、営利目的の内容であれば、なかなかお願いしづらい部分もありますが、今回のイベントは、私自身、これまでお世話になってきたホテルの皆様に、何か少しでもお返ししたいという思いが強く、赤字にならない程度で開催できればと思っていました。そして、ご参加はいただけなかったとしても、ホテルがクローズするという事実、その栄えある歴史に関心をお持ちいただくだけでも、大いに意義のあることだと思っていたのです。ありがたいことに、そういった主旨に、友人、先輩方もご賛同くださって、ご自身の手間も惜しまず、ご協力くださいました。逆に私も、友人やお世話になっている方々のイベントやニュースの告知のお手伝いをさせていただくことが、度々あります。こういう時、多忙な相手の時間を少しでも妨げないよう、「このままコピーして貼り付けてもらえればOK」というような告知文案を用意し、お渡しするのがベストです。

4.スイーツイベント企画の準備
 ホテルのお菓子について、現シェフにお話いただくだけでなく、より深く調べてご紹介したいと感じていました。1987年のホテル創業時期は、私もまだ「食」の世界に足を踏み入れておらず、当時の状況を肌で知らないということが大きなネックでしたが、歴代のシェフやその門下生として働いていらしたパティシエの方々ともご連絡を取り、イベントの主旨をお話し、お店を訪問して、ホテル時代の思い出をお話いただくなどしました。
 古い時代のことをよくご存知で、詳細な取材記事やご著書を残していらっしゃる大先輩のスイーツ愛好家のライターの方にもアドバイスをいただくことができ、古い文献探しなど、大いに助けていただきました。
 これらは、決して義務と言う訳ではなく、私自身の純粋な「知りたい」という気持ちで動いていたものです。フードコーディネーターの活動というものは、実は、かなりの部分が、直接的な利益に結びつかない、地道な下調べや情報収集だったりします。しかし、そこでコツコツと積み重ねて築いてきたネットワークや資料は、おそらくまた別の何かの機会に役に立つでしょう。フィールドワークが全ての出発点、そして強みとなります。お店に行き、実際に人とお会いすることで、初めてわかること、発見することが多々あり、それは金銭には換えられない価値のあるものです。
 実際のイベントに際しては、これら収集した情報を集約して、皆さんに配布する資料や、メニューを作成します。特に、食関係のイベントでは、召し上がったものをきちんと把握したいという方が多くいらっしゃいます。メニューや試食品リストはぜひとも用意したいツールです。
 また、協力企業側、会場側から配布されたい資料があれば、それらも必要な分ご用意いただきます。ただ、むやみに宣伝チラシのような物を大量にお渡ししても、重たくて喜ばれず、捨てられてしまいかねないので、何をお配りいただくかを事前にお伺いして把握し、ある程度厳選する必要があります。今回は、ホテルのクリスマスケーキ予約用リーフレットの見本コピーがご用意できるタイミングだったので、配布していただきました。このような情報であれば、スイーツに関心をお持ちの参加者の方にはご興味をお持ちいただける有用な内容なので、ぜひとお願いした次第です。

ホテル西洋銀座2012年クリスマスケーキ

5.スイーツイベント企画の当日
 最近、食のイベントに参加される皆様にお伝えしなくてはならない注意点として、当日の写真を、ブログやfacebookなどに載せてよいか、ということがあります。今回の会の主旨は、写真も大いに載せていただき、ホテルやお菓子の魅力を喧伝していただきたいので問題なかったのですが、発売前の商品試食評価会など、企業側が写真撮影や公開を制限されるケースもあります。その点は事前に確認のうえ、きちんとお伝えしてください。また、料理や商品等の写真公開はOKでも、一緒に参加されている方々の多くは、知らないところで顔写真を公開されたくないと思われているケースがほとんどです。今回は、シェフや、主催者である私については、顔写真を載せていただいても構わないけれど、他のお客様については控えていただくようお願いしました。通常は、ほとんどこのケースになると思います。
 普段、なかなかお話を伺うことのできないシェフのお話を楽しみにされている方が多いので、できるだけ沢山のお話をしていただきましょう。さらに、一方的に話を聞いていただくばかりでなく、時には参加者の皆さんにもマイクをお渡しして、交流を図れるようにしましょう。シェフをはじめとするホテル側のスタッフの方々も、お客様の声を直接聞ける機会を、とても喜ばれます。皆さんが、気軽に質問できるような雰囲気を作るのも、フードコーディネーターの役目です。

6.スイーツイベント企画のその後
イベント終了後は、参加者の皆さんはもちろん、ご協力いただいたお店や企業、集客にご協力くださった方などに御礼とご報告をします。そして、参加できなかった方にも様子がわかるよう、レポートとしてブログやfacebookなどを活用してご紹介しましょう。
ご好評であれば、第2回、第3回と新たな企画につなげていける可能性もあります。継続することで、毎年恒例の行事のように定着していく一面もありますし、企画側としても、反省点を次へ活かすこともできます。

 ここでご紹介したのは、食のイベントを開催する具体的方法の、ほんの一例です。食のイベントを企画開催することは、料理やお菓子の作り手、或いは素材の生産者の方などと、参加してそれらを召し上がる方々との交流の場を作ることであり、とてもやりがいのある活動です。ぜひ、自分自身も大いに楽しめるようなイベントを目指してください。