フードコーディネーター取材特派員NEWS

ふくいの味 「越前そば」 と、それを守り伝える粉挽き職人

中部

2013年11月6日

本州の真ん中あたり、日本海側に位置する 北陸 福井県は、全国でも有数なそばの産地です。

冬になれば雪が積もり、昼夜の寒暖の差が大きく四季がはっきりしたこの土地では、昔から各家庭でそばを打ち
ときにはもてなしの料理に出されるほど身近な食材として食べられてきました。

そば打ち

わが家のそば打ち
素人そば打ち人口が多いのも、県民性(?)

ここ福井(特に県北部)で「そば」と言えば、ほとんどの人が思い浮かべるのは「おろしそば」。
小ぶりの器に盛られた平打ち固めの黒っぽいそば。そこにたっぷりの大根おろしと出汁がきいたつゆをかけ、薬味に削りガツオとネギを盛るシンプルな食べ方。

おろしそば

越前おろしそば

 

”日本郷土料理百選”にも選ばれている この『越前おろしそば』は、県外から食べ歩きに訪れるファンも多く、噛みしめるごとに口に広がるその香りと味、そばそのもののおいしさが、今や全国のそば好きにも知られるところとなっています。

・そば栽培に適した気候、無農薬有機栽培と在来種

満開のそば畑

9月下旬 満開のそば畑

9月下旬から10月上旬頃にかけて福井県内いたるところで見られる、満開のそば畑。秋風に小さな花がそよぐ可憐な姿が見られる頃になると、そば好きたちは俄かにソワソワとしてきます。
花の開花と共に、「新そば」への期待も膨らんでくるのです。

ちょうど昼と夜の寒暖差が大きくなるころに実をつけてくる福井のそばは、気温が高い日中に実が育ち、夜になり冷え込むと
実がぎゅっと栄養を閉じ込める。この成長と溜め込むバランスが、味・香りが濃くなる要因の一つなのだとか。

そばの花

また、土地ごとに「丸岡在来」「大野在来」など、土地固有の『在来種』が存在し、同じ福井県内でも少しずつ特徴が違うそばが栽培されています。そして驚くべきことに、そのすべてが10年以上前から徹底して無農薬・無化学肥料栽培をしています。
その代わり、どうしても手間やコストがかかる上に収量が下がるため価格が高くなりがち。また、粒の大きさは他の産地のものと比べると2/3程と小さくなります。
しかしながら その分味・香りが濃いと品質の高さが認められ、現在は県内のみならず県外からの引き合いも多くなっています。

10月初旬、茎が赤くなり 実りの時期へ

 

・石臼挽きの製粉を守る

ゴロゴロゆっくりとしたスピードで穀物を挽く道具、石臼。今では目にしたことがない方も多いでしょう。
実は福井は全国でも珍しく、そば粉を扱う製粉会社すべてが昔ながらの石臼挽きを採用しています。
高度経済成長期の需要の高まりと共に、多くの産地で広がった機械製粉ですが、あえて非効率な石臼挽きを守ってきた福井の製粉所。
今回はその1軒、130年余り石臼挽きを守り、福井市内でそば粉専門の製粉業を営む(株)カガセイフンさんのもとを訪れました。

石臼のすり合う心地好い音が響く工場

工場の中は、整然と並べられた石臼がゆっくり擦り合う音と、挽きたてのそば粉の香り。
地元で採石された“小和清水石(こわしみずいし)”から作られた30台の石臼は、一番新しいもので15年、
古いものでは100年から200年近く回っている、代々受け継がれてきたもの。

「福井の人は当たり前に美味いそばを食べてきましたから、舌が肥えているでしょう?石臼を機械に変えると、味や香りが落ちたとクレームとなって返ってくる。だから辞めるわけにはいかないと、時間や手間がかかってでも、やっぱり石臼挽きを守っていこうという粉屋さんが多かったんです。」

と案内してくれたのは、こちらの6代目、加賀 健太郎さん。

健太郎さん

そば粉を見つめる目は、厳しく 優しい

「年数の経過した石臼であればあるほど、いい粉を挽くんです。こればっかりは今から石臼で粉屋をしようと思っても、なかなかできるものではないですよ。」

目立て

石臼の溝を再生させる「目立て」
そばを扱う製粉会社 各々独自に伝わる”仕事”

機械化や高齢化により、石臼をメンテナンスする職人が激減する現在、すり減った石臼の目を再生させる「目立て」も、5代目の父とともに健太郎さん自らが手掛けています。

同じように福井県内の製粉会社では、それぞれ独自に丁寧な目立てを継承しているのだとか。

・石臼挽きのそば粉の美味しさと、真摯な職人魂

石臼挽きの美味しさは「昔ながらの方法でゆっくり挽くから」というイメージに偏ったものではなく、科学的にも分析、立証されていること。
「上下の石がゆっくり“すり”合い、そばの実を切るようにして製粉していくので、粉が繊維質になってそこに粘りが出る。そして熱を持たないので、機械に比べて香りや風味を損なわず、そばの美味しさをそのまま粉に伝えることができるんです。」

石臼が落とすそば粉は、1回転あたり5g~6g。
1kgのそば粉を挽くには1時間以上を要するので、生産性を言うならば、確かに機械製粉とは大きな差があります。

「うちの石臼30台をフルに回転させても、1時間に30kg程度。機械製粉なら(機械が)小さくても2,30倍は違うから、効率では圧倒的に機械の方がいいんです。ただ“品質”を考えるならば・・・それは石臼にはかないません。」

粉ひき

一回りごとに少しずつ そば粉がこぼれてくる
石臼もそばの実の声を聴いているよう

 

作られた年代、手を入れた石工によっても違った個性を持つという石臼。 同じ条件・原料・回転数で挽いても全部仕上がりが違ってくる。・・・ということは、30台の石臼がそれぞれ全部、違う粉を挽くことができるということ。

新しい臼

石臼は50年に1cm程度すり減っていくという。
新しい臼は、上臼の”くぼみ”が、胴の真ん中に

130年の臼
こちらは130年近く使われた臼。
胴の”くぼみ”近くまで石がすり減っている。


お客様の要望するそば粉には、その日の天候・湿度によってどの石臼・どの原料が適しているか、回転数や粉を落とす量を変えながら、粉に触れて、感覚を研ぎ澄まし見極めていく。

「せっかく農家の方が、無農薬で手間をかけて頑張って育ててくれたおそばでも、製粉がしっかりしていなければいい粉が取れない。そばの美味しさは、まず原料の品質が6割。それを活かすのは製粉、粉屋の “仕事” だと、そういう気持ちでやっています。」

そばの実

単に「石臼で挽く美味しさ」というだけではなく、土地の環境、地のそばの特性を知り、石臼と向き合い、使いこなす職人がいるからこそ、「美味しい」と認められる品質に持っていくことができる。
“品質”とは、これらすべてに妥協せず打ち込む姿勢が産みだすものなのだと、胸が熱くなりました。

長い年月、舌の肥えた地元の人たちを相手にそば粉を挽いてきた福井の製粉会社たちは、自らも地元のそばを愛し、そのそばの美味しさを最大限に引き出すことに真摯に向き合い、今もゆっくりと石臼の音に耳を傾けているのです。

・新そばシーズン到来!!

気温がグッと低くなり、各地域でそばの刈り入れが始まっています。
今年は台風の影響で、収穫量の減少が心配されていますが、あちらこちらで「蕎麦会」の話も聞こえるようになり、11月には毎週末どこかで「そばまつり」が開かれます。そば好きの心が躍る「新そば」シーズンの到来です。

「蕎麦は風土が味付けする。」と言われます。福井が育んだ越前そばは、地元で食べると一段と美味い。
福井の豊かな自然に育まれ、職人が心を込めて挽く香り高いそばを、どうぞ皆様一度食べに来てみてください。

取材協力
越前蕎麦粉製造元 株式会社カガセイフン 
〒910-0804 福井県福井市高木中央1丁目3004
Tel.0776-54-0578