フードコーディネーター取材特派員NEWS

新品種はこうして生まれる!~信州フルーツ品種開発最前線~

中部

2014年8月6日

 最近、デパートやスーパーの青果コーナーでは、今までに聞いたこともなかったようなフルーツの名前を目にします。めずらしいものをみかけると、ついつい手に取ってしまいますよね。ところで、このような新しいフルーツは、一体どうやって生まれているのでしょう?今回は、本業がぶどう農家のフードコーディネーターがフルーツの品種開発の最前線をお届けします。

 私の住む長野県は、りんご・ぶどう・桃など全国屈指の生産量を誇る「フルーツ王国」です。  このフルーツ王国長野県で誕生し注目されているぶどうとりんごがあります。それが、皮ごと食べられる種なしぶどうの「ナガノパープル」と、甘味が強くジューシーなりんご「シナノスイート」です。この2品種は日本農業新聞「果実売れ筋ランキング」においても、第2位と第3位にランクインしており、全国的にも非常に関心が集まっています(日本農業新聞2013年調べ)。  今回は、この注目品種の生みの親である長野県果樹試験場にご協力いただき、フルーツの品種開発のあれこれをお聞きしてきました。ただし、フルーツと言っても数々の品目がありますので、長野県が特に力を入れているぶどうとりんごが話題の中心です。

フードコーディネーター(以下、フ):最近の果物に対する消費者のニーズは、どういったところにあるとお考えですか?

果樹試験場(以下、果): 日本農業新聞の「売れ筋ランキング」などを見ると、ぶどうであれば皮ごと食べられる、柑橘類であれば薄皮が薄いなど、食べておいしいという「食味」だけでなく、「食べやすさ」が非常にウケていると考えています。この傾向はしばらくは変わらないと思われます。ですので、新しい品種を育成するに当たっては「食べやすい」ということが近年は必須の条件であると考えています。

フ:ぶどう農家である私たちも、販売を通じて皮ごと食べられる品種は非常にウケがいいと感じています。やはりどの品目も食べやすさがひとつの条件なんですね。ところで、食味の上では日本の果物は非常に甘味が強い傾向にあると思いますが、この点ではどうでしょうか?

果:最近は若者中心に「すっぱいものが苦手」の傾向にあるようです。一昔前は甘・酸のバランスが取れていることが食味が良い、とされてきました。ところが現在は酸味が少なくて甘い方が好まれているようです。実は「シナノスイート」は開発当初「酸味が少なくて甘いだけではないか?」という意見もあったのですが、今はそれが時代のニーズにマッチしているようです。  実は、「このような品種を育てるぞ」という育種目標はわりと大雑把なものなのです。あまり細かい目標を立てていては、途中で面白い品種が出来たときに、拾い上げることができなくなってしまいます。例えば、「シナノピッコロ」という小玉のりんごがありますが、これは小さなりんごを作ろうとしてできたわけではないのです。食味の良いものを作ろうとしていたら、たまたま小玉のものができたんです。マーケットではどちらかというと大玉のりんごの方がウケる傾向にあります。しかし、「食べきりサイズのりんご欲しい」という新たなニーズがあるんじゃないかと考え、品種化することにしました。以前はわりと開発側、生産側の事情を考えることが多かったのですが、最近は品種開発の世界でもマーケット重視の考えが広まっていると思います。

フ:新しい品種の開発に着手してからできあがるまで、一体どれくらいの期間がかかるのでしょうか?

果:品目によって異なるのですが、わりと短いと言われるぶどうで10年以上、りんごになると20年以上かかります。ナガノパープルは種苗法※に基づいて品種として登録が完了するまで14年ほどかかりました。

※種苗法: 新品種の保護のための品種登録に関する制度等について定めることにより、品種の育成の振興と種苗の流通の適正化を図り、農林水産業の発展に寄与することを目的とした法律。

フ:どうしてそのように時間がかかるのでしょうか?一般的な品種開発の流れを教えてください。

果:まず、育種目標に沿った特性を保有する優良な品種を選んで交配するところから始まります。初年度は花粉を交配させて結実させた果実から種を取ります。翌年その種をまいて、発芽したら苗木として育てます。その中から優れた性質を持つ苗木を選抜して育成していきます。ぶどうであれば種をまいて2~3年で結実しますが、りんごの場合は7~8年しないと結実しません。まずそこで時間がかかってしまいます。結実して果実を食べてみておいしければ「ハイ、終わり」というわけではなくて、固有の品種として形質が安定しているか(固有の品種として種苗法に登録できる条件を満たしているか)、着色など品質が安定しているか、一般への普及性(誰が作っても品質のぶれが少ない)などの条件を数年かけて検証します。育成が完了して、品種登録に出願しても、実際に登録が完了するまでにはさらに2年ほどかかります。ですので、交配から登録までは平均して20年ほどとなっています。

↑昨年交配して採れたりんごの種が発芽したところ

↑こちらはぶどうの種をまいた箱。そろそろ発芽しそうです。

↑試験場内のぶどうの畑。発芽した後苗木を育て、ある程度の大きさになったら畑に移植します。

フ:「交配」とはどのように行うのですか?

果:花の咲く時期に、品種の違う花同士を使って花粉をつけます。特にぶどうの花は手間がかかります。まず、母親となる品種について、花が咲く前にやく(花粉が入っている部分)をピンセットですべて落としてから、他の花粉がつかないように撥水処理した紙袋をかぶせ、そこへ父親となる品種の花粉をつけてまた紙袋をかぶせるという作業を、花の時期にひたすら行います。

  ここまで聞いて、品種開発とは根気と年月の必要な作業だということに、「へ~」「なるほど~」と驚きの連続です。具体的な交配手順は私ですら初耳。優良品種を開発してくださっている方々に、改めて感謝の気持ちを感じました。

 フ:品種開発する上での苦労話などあったら教えていただけますか?

果:苦労と言いますか、収穫期になると開発担当者はすごい量のぶどうやりんごを試食するので、お腹の調子が悪くなることがありますね。

フ:最後に、長野県の果物開発の方向性などがありましたら、教えてください。

果:地球温暖化の影響で、果実の着色がしにくい状況になってきていますので、温暖化になっても着色が容易な品種というのは今後の課題かと思います。他県との時期的な間隙を埋められるような「早生」や「晩生」の品種の開発も必要です。あとは生産者の労力を削減できるよう、省力性や耐病性などを高めていく必要があります。

以上、長野県果樹試験場 育種部の方のお話でした。貴重なお話、ありがとうございました!!

このレポートを読んで下さった皆様、いかがでしたか?皆さんが食べているフルーツの誕生の裏側にはこのような秘話があることを知っていただけたかと思います。次、フルーツを食べる時には「これはどこで生まれたんだろう?」なんて考えながら食べると違った味わい方が発見できるかもしれないですね。
ちょうどこれから、長野県ではぶどう・りんごが相次いで収穫期を迎えます。長野県自信作のフルーツ…ぜひ食べてみてくださいね!

取材協力
長野県果樹試験場
http://www.pref.nagano.lg.jp/kajushiken/index.html