フードコーディネーター取材特派員NEWS

オンリー・ワンのブランド魚「信州サーモン」の秘密に迫る!

中部

2014年12月8日

1. 信州サーモンの不思議
国道19号を松本から長野方面に走っていると、安曇野市明科で、こんな案内看板が出てきます。
「長野県水産試験場 ←(こっち)」
初めて見た時、とても不思議に思いました。
「長野県、海ないのに、なんで・・・・?」

しばらくしてから、理由が判明しました。
アルプス山脈 から流れ出る豊かな水資源に恵まれた長野県。
そう、ここは淡水魚をはじめとした水辺の生物や河川・湖水に関わる研究施設だったのです。

この水産試験場で、10年ほど前に全国でもここでしか育てることのできない、長野県オリジナルの魚が誕生しました。その名も「信州サーモン」。ニジマスとブラウントラウトを交配させたマスの仲間です。今では、旅館やレストランでの食事や、ハレの日の食卓を飾る高級食材として、県内をはじめ全国でも認知されるようになりました。



信州サーモン

信州サーモンの特徴は、なんといっても「トロけるような美味さが一年中味わえる」ということです。適度に脂がのっていてコクのある豊かな味わいでありながら、脂っこすぎず決してしつこくありません。刺身で食べるとその持ち味が良くわかります。

「美味しさが一年中味わえる」というところに、信州サーモンの秘密があります。
通常のマス類は、成長して卵を持つようになると、メスの体は卵に栄養を与え、オスはエサを食べずに縄張り争いをするため、肉質が低下してしまいます。ところが、信州サーモンは卵を持たないため、産卵に要するエネルギーが体内に蓄えられ、肉質が低下することはありません。これが産卵期に左右されない、おいしさを保てる秘密です。

「卵を持たない??」・・・不思議ですね!
実は、信州サーモンは染色体の数を操作するバイオテクノロジーを駆使して誕生しました。信州サーモンは三倍体という特殊な染色体数を持った魚なのです。しかも全部メス。三倍体のメスの魚は卵を持たないという特性があります。信州サーモンの詳しい交配の方法は、こちらをご覧ください。



信州サーモンの稚魚

 長野県水産試験場では、これまでに培った技術とノウハウにより、安定して三倍体の魚を作り出すことに成功しました。信州サーモンの稚魚を作り出せるのは、長野県の水産試験場だけです。
 毎年11月になると、試験場では親となるメスの四倍体のニジマスから卵をしぼり、性転換で雄にしたブラウントラウトの精子を受精させて、三倍体の信州サーモンの受精卵を作ります。12月の中旬頃に稚魚が孵化し、稚魚は翌年の6月頃まで、試験場で大切に育てられます。そして、体長5cm程度に成長すると、県内の養魚場へ出荷されます。



ニジマスから卵を取り出す作業

 信州サーモンは、生きたままの県外持ち出しが禁止されていますので、信州サーモンを飼育できるのは、県内の業者に限定されます。まさに、長野でしか作れない、飼育できない、オンリーワンの魚なのです。

2. 湧水と熱意に育まれる信州サーモン
 このように試験場から出荷された稚魚は、どのように飼育されているのでしょうか?ここから先は、安曇野市の養魚場 (有)マルト水産にご協力いただき、飼育の様子を見せていただきました。

 安曇野市は、北アルプスの伏流水が随所で湧き出ており、わさび田や養魚場が点在しています。安曇野の湧水は年間の水温が12~15℃で、マス類の飼育に適していると言われ、古くからニジマスなどの養殖が盛んに行われていました。

 水産試験場から出荷された稚魚は、養魚場で2~3年かけて2kgほどの大きさに飼育されます。通常は2年ほどで成魚になると言われている信州サーモンですが、安曇野の水は水温が低く、成長にやや時間を要し、3年以上もかかるそうです。
 「3年も飼育するとコスト的には厳しいけど、冷たい水で育った信州サーモンは、肉質が締まっていて美味しいんだ」とマルト水産の徳竹社長。
 マルト水産では、魚を成長の段階に応じて、いくつかのいけすに区分して飼育しています。薄飼い、と言うそうですが、いけすの中の魚の数は少なめです。広いいけすのなかを自由に泳ぎ回ることで、魚に余計なストレスを与えないようにしているそうです。また、安心して食べてもらえるよう、病気治療のための薬の使用も、できるだけ控えているとのこと。





マルト水産のいけす。広々したいけすで魚たちが悠々と泳いでいます。

 また、出荷を間近に控えた魚のいけすと湧水の引き込み口の清掃には気を遣うそうです。というのも、魚がある種の藻が繁殖している水で飼育すると、臭い (カビ臭)がついてしまうことがある ので、藻が生えないようにいけすをきれいに保っておく必要があるのです。

 と、お話を伺っていると、ブーンと車に乗ってやってきて、長靴をはいた男性がいけすから網で魚をすくっているではありませんか!おやおや?と思っていると、それは近くの旅館のご主人で、魚を量り売りで分けてもらいに来られたとのこと。マルト水産では、各方面の市場や旅館・飲食店への出荷のほか、このように近場の方への量り売りも行っています。ただし、これはご自分で魚をさばける方限定です。
 「大事に育てた魚だから、きちんと料理してもらいたいんだ」
この言葉を聞けば、どれだけ大事に魚を育てているか、十分に理解できます。

  そして、社長の奥様には、オススメ料理を特別に調理していただきました。
信州サーモンは、水揚げ直後にいただくと身が締まり過ぎているので、1~2日置いてゆるんできた頃が、トロリとした味わいを一層楽しむことができます。





  信州サーモンの良さをわかってもらうには、まずは生で」ということで、火を通さないお料理を作ってくださいましたが、信州サーモンはもちろん火を通してもおいしくいただけますよ。
 「生で」と言うと、寄生虫の心配をされる方もいるかと思いますが、信州サーモンは寄生虫に接触する機会がなく、いまだに一匹の寄生虫も見つかったことはありません。生で安心して食べられるお魚の一つです。



シンプルに和の味わい、お刺身もお寿司もペロッと食べられます。お醤油・わさびとの相性もバッチリです。

サラダやマリネなど、洋のお料理にも。クリームチーズと玉ねぎを合わせたサラダも、いっそうコクが増して、トレビアーン!!

  「私たちは、生き物の命をいただいて、生計を立てているでしょう?だから、いつも感謝しているの。おかげさまで私たちはご飯を食べられますってね。大切に育てたお魚だから、お料理をするときは大事に食べてあげないといけないと思っているの」
 ジーンとくる言葉でした。魚を切り身で買ってくることの多い私にとって、生きた魚が食材になる瞬間と言うのは、意外と経験したことがないような気がします。私たちは命をいただいている、ということを改めて感じました。
 魚をおろした時に骨についていた身は、軽くあぶって骨からはずし、乾煎りしてから、お醤油と白ごまで味付けしてフレークにしてくださいました。おろしたお魚は、骨以外捨てるところはありませんでした。

 今回も最後までおつきあいいただき、ありがとうございました!このように、信州サーモンは、バイオテクノロジーから生れ、情熱あふれる飼手たちと信州の豊かな水によって育てられています。今回の取材で、私自身も信州サーモンについて詳しく学ぶことができ、この美味しさを知ってもらいたいとますます思うようになりました。また、丹精込めて育てている生産者の方々との触れ合いを通じて、命をいただくありがたさを実感しました。

 都内の高級スーパーなどでも信州サーモンを取り扱う店はありますが、できれば信州へ足を運んで、アルプスや川のせせらぎを眺めながら、信州サーモンを味わっていただきたいと思います。美味しさも、ひとしおですよ!

取材協力

長野県水産試験場
長野県安曇野市明科中川手2871
TEL:0263-62-2281
http://www.pref.nagano.lg.jp/suisan/index.html

 (有)マルト水産
長野県安曇野市穂高4053-2
TEL: 0263-82-2540